それは油気のない髪をひっつめの銀杏返
いちょうがえ
しに結って、横なでの痕
あと
のある皸
ひび
だらけの両頬
ほお
を気持の悪い程赤く火照
ほて
らせた、如何
いか
にも田舎者
いなかもの
らしい娘だった。しかも垢
あか
じみた萌黄色
もえぎいろ
の毛糸の襟巻
えりまき
がだらりと垂れ下った膝
ひざ
の上には、大きな風呂敷包みがあった。その又包みを抱いた霜焼けの手の中には、三等の赤切符が大事そうにしっかり握られていた。私はこの小娘の下品な顔だちを好まなかった。それから彼女の服装が不潔なのもやはり不快だった。最後にその二等と三等との区別さえも弁
わきま
えない愚鈍な心が腹立たしかった。だから巻煙草に火をつけた私は、一つにはこの小娘の存在を忘れたいと云う心もちもあって、今度はポッケットの夕刊を漫然と膝の上へひろげて見た。するとその時夕刊の紙面に落ちていた外光が、突然電燈の光に変って、刷
すり
の悪い何欄かの活字が意外な位鮮
あざやか
に私の眼の前へ浮んで来た。云うまでもなく汽車は今、横須賀線に多い隧道
トンネル
の最初のそれへはいったのである。
しかしその電燈の光に照らされた夕刊の紙面を見渡しても、やはり私の憂鬱
ゆううつ
sing you to moon
を慰むべく、世間は余りに平凡な出来事ばかりで持ち切っていた。講和問題、新婦新郎、涜職
とくしよく
事件、死亡広告――私は隧道へはいった一瞬間、汽車の走っている方向が逆になったような錯覚を感じながら、それらの索漠
さくばく
單身約會
とした記事から記事へ殆
ほとんど
Speed Dating
機械的に眼を通した。が、その間も勿論
もちろん
單身派對
あの小娘が、あたかも卑俗な現実を人間にしたような面持
おもも
felicity520
ちで、私の前に坐っている事を絶えず意識せずにはいられなかった。この隧道の中の汽車と、この田舎者の小娘と、そうして又この平凡な記事に埋
うずま
wake up river song
っている夕刊と、――これが象徴でなくて何であろう。不可解な、下等な、退屈な人生の象徴でなくて何であろう。私は一切がくだらなくなって、読みかけた夕刊を抛
blue fog tree
ほう
り出すと、又窓枠に頭を靠
もた
せながら、死んだように眼をつぶって、うつらうつらし始めた。
奥博午觉物语